モードの歴史で解説!映画やポップスのヒット曲での実例も
モードとは?と気になってこちらを読まれた方も多いのではないでしょうか?時折質問される、このモードという概念。ひとことでは中々説明が難しいのですが、先日Twitterでもご質問を頂きまして、こちらにまとめさせて頂きました。もしご興味ある方はご一読頂ければ幸いです。
目次
【知識篇】
・モードとは
・モードを使った曲でよく使われる定型コード進行
・ヒット曲で使われるモード手法
・モードって分かりにくい?
【歴史篇】
・モードの起源
・様々な世界の文化の中の音楽
・古代ギリシア音楽
・教会音楽の誕生
・調性の誕生
・調性の否定
・モードの再発見とモーダルハーモニー
・ジャズ
・そしてポップスへ
・おわりに
要点のまとめ
・モードとは
→「システム」である。
→節回し、中心の音、特徴付ける使用される音の3要素で全体の調子やカラーが決まる
・モードを使った曲でよく使われる定型コード進行がある
・様々なモード手法が現代のヒット曲で使われる
・モードって分かりにくい?
→理屈ではなく、まず感覚的に理解することが大切。
【知識篇】
モードとは?
さて、モードとは何でしょう?
モードにコード進行は、本来ありません。
なぜならモードは、古くから世界の全ての音楽で広く用いられるシステムを概念化したもので、西洋でポリフォニー、和声が発達し、英国から欧州へ伝わった3度で積んだハーモニーの機能を中心とした調性音楽が成立した際に、モードの音楽が調性音楽へ代わったからです。
モードは、言ってみれば各地の言語や方言、習慣や様式の様なものを表します。
インドではラーガ、アラブではマカーム、日本では調(西洋音楽の調ではない)などと考えられているものの総称です。
モードには、
1.中心となる音(終止音)
2.特徴を感じる音(特性音)
3.その他に使う音と、固有の節回し(フレージング)
があります。
例えば、Cミクソリディアンモードというモードは、
Cという中心音があり、Bbという特性的な音があり、それ独自の節回しがあります。使う音はC、D、E、F、G、A、Bbの7音です。
モードというのは7音だけに限らず、日本にも伝統的な多数のモードがあり、例えば、陰旋法というモードはお馴染みサウンドと言えるかもしれません。
これはCが中心であれば、C、Db、F、G、Abの音を使うモードです。
他にも世界には膨大な数のモードが存在しています。
さて、詳しいお話は後ほどご説明致しますが、その後、20世紀が近づくと改めてモードに回帰したサウンドが使われる様になりました。そこで本来ハーモニーが無いモードに、様々な工夫をしてハーモニーを導入したものが、現在よく使われているモードを取り入れた音楽です。こちらのタイプのモード音楽にはコード進行を想定することができます。先に現代のモードの実例をご紹介いたします。
モードを使った曲でよく使われる定型コード進行
モードを使った曲でよく使われる定型コード進行には、以下の様なものがあります。
(例)C Mixolydian
C – Gm
C – Bb
(例)C Lydian
C – D
C – Bm
(例)C Dorian
Cm – Dm
Cm – F
(例)C Phrygian
Cm – Db
Cm – Bbm
ヒット曲で使われるモード手法
現代のポップスにも、モードは幅広く使われていて、
アナと雪の女王「Let It Go」
(Aメロ/バース部分:部分的にドリアンモード)
(Bメロ/プリコーラス部分:ミクソリディアンモード)
https://youtu.be/moSFlvxnbgk
Lorde「Royals」
(ミクソリディアンモード)
https://youtu.be/nlcIKh6sBtc
Pharrellの「Happy 」
(ドリアンモード/ミクソリディアンモード、もしくはブルースモード)
https://youtu.be/ZbZSe6N_BXs
Imagine Dragons「Radioactive」
(ドリアンモード)
https://youtu.be/ktvTqknDobU
Red Velvet 「Happiness」
https://youtu.be/JFgv8bKfxEs
古くは日本の歌謡曲でも
キャンディーズ「暑中お見舞い申し上げます」
(サビ冒頭がミクソリディアンモード)
https://youtu.be/S57M8j7fDGc
など、モード手法は多くのヒット曲に見つけることができます。
ポップスばかりでなく、J-POP、映画、アニメ、ゲーム等、様々な音楽でモード手法が使われています。
モーダル・メロディや、モード上にコードを想定する考え方等を学ぶと、モードを自由自在に使って、更に独自のサウンドを生み出す事ができます。
是非、楽曲の理解や、作曲、演奏、鑑賞の際などに参考になさって頂ければと思います。
モードって分かりにくい?
今回の内容をTwitterで呟いたところ、「モードと西洋音楽の歴史を上手くまとめてくれているのでモーダルハーモニーを勉強したい人はこれを読んでいただきたい」とのご意見を頂戴いたしました。
日頃制作に追われていて、さらに筆不精なもので、この様なお声は、大変励みになります。この場をお借りして、重ねて御礼申し上げます。
また、別のご意見で、
「モードってコード進行の反対の意味では?
モードとチャーチスケールが混同しやすい」
というご意見を頂きました。
確かにその通りで、私も勉強していた頃に中々実感として入って来なかった記憶があります。今では使いこなせる様になって様々な音楽制作でとても役に立つサウンドのノウハウなので、是非多くの方に知って頂き、できる限り分かりやすくお伝えできればと感じておりました。
そこで、今回モードの歴史を踏まえて、こちらに解説致します。
モードをきちんと理解するには、音楽的な歴史的背景を踏まえた上で、理論的に理解しつつ、感覚的にもサウンドとして理解する必要があります。
感覚がとても大切です。
ですので、この記事が、そうした学習や創作のヒントとして、お役に立てますと幸いです。
【歴史篇】
モードの起源
さて、モードとは、
【古くから世界の全ての音楽で広く用いられるシステムを概念化したもの】
ということは冒頭でご説明致しました。
もう一度順を追って解説させて頂きます。
様々な世界の文化の中の音楽
古い音楽や、古くから現在に伝わる伝統音楽や、西洋音楽の影響を受けていない音楽、世界中の様々な音楽は、ほぼ全てモード音楽として捉えることができます。古の世界には、豊かなモード音楽が溢れていました。
音階も、5音音階、6音音階、7音音階、8音音階など多種多様で、上りと下りで音が変わる音階や、2オクターブで一つの音階となるもの、4分の1音で出来ているものなど様々なものが使われました。
(詳しくはYouTubeなどで、世界各国の民族音楽を聞いてみて頂ければと思います。)
古代ギリシア音楽
古代ギリシア文明では、7音の音階(ドーリア音階、フリギア音階、リディア音階…など)が使われていました。世界最古の解読され再現可能となった石碑に刻まれた音楽や、その他出土している断片からもその音階の歌や演奏が親しまれていたことが分かっています。
(例)Seikilos Epitaph
https://youtu.be/kG4tDJ-WrK4
教会音楽の誕生
古代ギリシアの音楽は、その後ローマ帝国の時代を経て、キリスト教文化に受け継がれます。
キリスト教の聖書の内容をメロディに載せて歌う様になり、それが聖歌として成立していきます。その後、グレゴリオ聖歌として教会で歌われる様になります。
グレゴリオ聖歌は、全員で同じメロディを歌う「モノフォニー」というタイプの合唱の音楽でしたが、途中から8度や5度、4度の完全音程のハーモニーが使われはじめます。更に、様々な音程を導入した合唱が歌われ始めます。これは「ポリフォニー」と呼ばれます。
この音程をどの様に制御して作曲するか?という作曲法が「対位法」というテクニックとして発達します。こうしてモード音楽の中でハーモニーが発展していきます。
調性の誕生
今回詳細は省きますが、西洋でポリフォニー、ハーモニー(和声)が発達し、さらに不協和音の積極的な導入が行われ、調性音楽が成立します。
こうして、西洋の教会音楽でモードの音楽が、調性音楽へ代わりました。
こうした変化は、グレゴリオ聖歌~モンテヴェルディ~バッハあたりの年代の音楽を追って聴くとよく分かります。
調性の否定
その後、せっかく成立した調性を否定する歴史が始まります。これが西洋クラシック音楽~現代音楽の歴史です。転調や調性外音が盛んに導入され、最終的には12音技法、無調、多調、3度堆積以外の和音導入…などなど
様々な手法で、調性を否定し始め、和声(ハーモニー)の崩壊が始まります。
モードの再発見とモーダルハーモニー
その際に、拠り所として民族音楽やモードに答えを見出す人々が現れました。(バルトークなど)。彼らは本来モードになかった和声を導入しようとしました。しかしモードに和声を入れようとすると調性音楽になってしまう。
本来、和声がないモードに、和声を統合するための方法論が様々検討され、結実しました。つまり、調性を感じさせない為の、「新しいモードの活用法」です。
ジャズ
さて、話は飛びまして、ジャズのハーモニーの歴史は、クラシックの方法論の後追いです。
ジャズは、ビバップ時代に、クラシックの手法を後追いし、調性の目まぐるしい転調の究極を迎えました。その後、新しい手法であるモードジャズが誕生します。(マイルスのカインドオブブルーなど)ここでは、本来和声(コード進行)が存在しないモード音楽の上で、調性音楽にならない様注意しつつモード音楽を維持した上で、コード進行を展開していく方法が、クラシックの手法を取り入れつつ確立されました。
これが
[新しいモーダルハーモニー]
です。
具体的には、モード上にダイアトニックコードを想定し、そこから調性的動きや響きを排除し、終始音と特性音を強調するハーモニーです。
手法はいずれ、書ける機会があれば、ご説明させて頂きます。
これらが冒頭部分でご紹介させて頂いた、
[モード上で、モード音楽の性質を壊さないコード展開]
となるコード進行です。
ご紹介したのは、一番分かりやすい代表的なコード進行です。
[モードの性格を壊さないコード進行]
ですから、Twitterでの質問の通り、本来的なモード音楽にはコード進行はありません。
その前提の上での、[モードの性格を壊さないコード進行]がこれらです。
そしてポップスへ
クラシックのハーモニーの歴史を、
ジャズが後追いし味付けを加え、
ポップスが更にその仕組みを後追いし、
分かりやすい形でヒット曲として届けて、
現在に至る
この様に考えると整理しやすいかと思います。調性音楽の中に、モードの性格を維持したまま、モーダルハーモニーを導入することも多い様例です。
モード音楽と、調性音楽の区別をしっかり持つことは、とても重要であり、大事な視点だと思います。
双方を混ぜる際にも、しっかり意識する必要があり、Twitter上でのご指摘は、とても重要なご指摘だと思いました。
是非、モードの手法をお試し頂ければ幸いです。
導入に際して分からないことがあれば、SNSなどでもご連絡下さい。
おわりに
「モーダルハーモニーがこのように発展し、これもまた『モード』ということを初めて知りました。とても勉強になりました。」
とのご感想を頂きました。
お役に立てて嬉しかったことはもちろんですが、個人的にも音楽がもっと面白く沢山の方々のものになることが自分の目標でもあります。ですから、こうした機会に音楽の役に立つ知識をシェアすることができ、また自分も新たな音楽の誕生を目撃し、巡り会えると思うと嬉しい気持ちになります。
何か音楽についての疑問や悩みなどがございましたら、できるだけお答えし情報をシェアしていきたいと思っておりますので、お気軽にご質問下さいませ。
このモードに関する知識については、よく誤って伝わってしまっているケースも多く、本来は素敵な楽曲作りに活かせるものであるのに、と嘆いていた部分もございました。皆様のお役に立てれば幸いです。更に詳しい知識や実際の運用方法もいずれ何かの機会にお伝えできればと思います。
モードを取り入れると更に面白いアイデアのきっかけにもなると思います。是非お試しくださいませ。
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