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2019-05-10

前後関係の構築から始めていく立体的なミックスのコツ

ミックスについてご質問を頂く機会がありましたので、こちらに書かせて頂きます。

「低域に量感が少ない(低域が豊かでない)」
「中高域が前の方に、低域が後ろの方に定位して感じる」

この様なMIXになってしまう。という場合、どの様にすれば改善できるのでしょうか?

答えは、前後関係の構築から始めていくということです。

「前に出す」は間違い

今回の様なケースの場合、低音域の成分が、中音域、高音域に比べて、全体的に後ろ(奥)に位置しています。

ここで多くの方が前に位置する楽器を前に出そうとしてしまいます。
これがまず失敗の原因となります。

前に出そうとして、音の成分を強調したり大きくしたりすると、様々なパートが飽和して、さらに混沌としてしまいますし、前の方に位置するパートの音も変化してしまいます。

そうではなく、「奥に定位するパートを、奥の方に送っていく」という作業をメインにする考え方を基本として頂ければと思います。

前にある大事なパートよりも、奥に位置するパートの方が音が変わってしまう方が良いですし、自然界でも、奥の音ほどはっきりしていないということが多いですよね。つまり自然な仕上がりになります。

そして最後に全体の調整段階で、初めて「前に出す」処理の作業を加えて整えます。

先に手前に置くパートからミックスしていく

ミックスの手法としては、先に手前に置くパートから順にミックスしていくと、狙った前後感に設置できます。

前述した様に、今回の様なサウンドの場合、ミックスしてから、後で特定のパートを前に出すのは上手くいかないケースが多いです。

前の方の音を処理していって、最後に奥の方の音を処理します。奥の方の音の処理の一環として、リバーブやディレイなど空間系の音の処理も行います。

架空の楽曲ミックス

ここからは仮に架空の一曲をミックスする想定で解説していきます。

前から順に、ボーカル、キック、ベース、スネア、ギター、その他、、、だとすれば、

【ボーカル処理】

一旦全パートをミュートしてから、

まずボーカルを置きます。
ここではEQで、不要な200Hz以下のノイズなどをローカットで除去、また完成ミックスの中で鳴っていて欲しいボーカルの音キャラクターをイメージして、それに近づけるEQをします。ここでは最低限の音の調整に留めておきます。

【キック処理】

次に、キックを置きます。

この時、ボーカルのすぐ後ろかほぼ同じくらいの、前方に、キックが来る様な音量にします。

そして、ボーカルと被っている帯域があれば、キックからその帯域を減らして、両方がクリアに鳴っている様にします。

また、スペクトラムアナライザーで見て、キックの低音がしっかりボーカルと同じくらい出ている様にEQで低域を出しておきます。

高域のアタック成分もボーカルを邪魔しない程度に、くっきりする程度にピンポイントで少し出しておいて下さい。

【ベース処理】

次にベースを置きます。

ベースは、キックと同じくらいか、少し後ろに位置するくらいの音量に設定します。

まず、ベースがボーカルと被っている帯域があれば(大体の場合は被っています。)ベースからボーカルと被っている帯域をEQで削って減らします。

ボーカルの大事な帯域は、声の土台(基音)部分が、200Hz-500Hzくらいにいますので、その部分。
歌詞の内容や歌の表現部分が分かりやすい倍音成分が700Hz-2000Hz辺りにいますのでその部分。
声の輪郭が3000Hz前後にいますのでその部分。
(実際にはケースバイケースですが)
これらの部分を、ボーカルがはっきりするまで、ベースからEQで削ります。

次に、キックとベースを聴いてEQします。
低域部分では、ベースがキックを邪魔している部分をEQします。
バンドものだとキックが60Hz-100Hzくらいの部分をドンと出すことが多いので、ベースは100Hz以下をローカットしてその部分を邪魔しない様にします。(ピンポイントで削る場合もありますが、今回はローカットにします。)
高域部分では、今回のサウンドでは、ベースは100Hz-200Hzは重要だとすると、そこをしっかりと残し、200Hz以上でキックの邪魔をしている帯域を削ります。

ここで、逆にもう一度キックの方のEQを調整します。
キックとベースを聴いて、キックがベースを邪魔している部分を探します。
今回はベースが100Hz-200Hzをしっかり出すので、キックの100Hz-200Hzをピンポイントで削ります。
キックの50Hz-100Hzは大事なので削らずにしっかり残して下さい。

【前の方に位置する大事なパートが完成】

ここまでで、ボーカル、キック、ベースが全てクリアに、前の方に位置するミックスができました。
この前の方の大事なパートがしっかりミックスできた。ということがとても重要です。あとは、これらの音を邪魔しない様に、これらの音にこれからミックスする他のパートの音が覆いかぶさってこない様に気をつけながら、削って削って、ミックスに対して空きスペースに追加していくイメージです。

【スネア処理】

次にスネアを置きます。
今回は、スネアを、ボーカルよりも少しだけ後ろに聞こえるくらいの音量に設定して下さい。

そして、スネアとボーカルを聴いて、スネアがボーカルを邪魔している帯域があれば、スネアにEQを使って、その部分の帯域を削ります。

また、ベースやキックを邪魔している帯域をローカットで削ります。今回は200Hz以下をローカットでバッサリと切って下さい。

その次にスネアの大事な土台部分「ドン」という音の部分が、200Hz-400Hzくらいの何処かにいると思いますので、その部分をしっかりと出して下さい。中低域がしっかり前に位置するスネアの音ができると思います。スネアは大抵の場合、長く伸びた音ではなく、すぐに消える短い音のことが多いので、割と高音域が出ていても邪魔にはなりません。(余韻の長いスネアの場合は邪魔になりますので、削る処理をすることもあります。)
ボーカルとスネアを聞いて感覚上邪魔ではない程度のバランスにしておいて下さい。

【ギター処理】

次にギターを置きます。
ギターとボーカルを聴いて、ギターの方が少し後ろに位置する音量に設定します。
ギターがボーカルを邪魔している帯域があれば、その部分を探してEQで削ります。

ベースの項目で書いた様に、ボーカルの大事な帯域は、声の土台(基音)部分が、200Hz-500Hzくらいにいますので、その部分。
歌詞の内容や歌の表現部分が分かりやすい倍音成分が700Hz-2000Hz辺りにいますのでその部分。
声の輪郭が3000Hz前後にいますのでその部分。
これらの部分を、ボーカルがはっきりするまで、ギターをEQで削ります。

ギターのエッジ感は残る程度に上手くバランスを取りつつEQで削ります。
この時気をつけたいのは、高域を思ったよりカットする事です。

ボーカルの高域がクリアに聞こえるまで、シェルビングEQなどで2000Hz以上のギターの成分をどんどん削ります。
一旦、丸くなりすぎかな?と心配になるくらいでも大丈夫です。
ボーカルがとてもクリアに聞こえる様になったら、さらに追加のEQでギターの高音の中の美味しい部分だけ、ピーキング(ベル)EQでピンポイントでブーストします。
ボーカルを邪魔しないギリギリに留めます。

次にキックとベースをクリアに聞かせるために、ギターの低域をローカットで削ります。
今回はキックが50Hz-100Hz、ベースが100Hz-200Hzをしっかり聴かせる方針なので、ギターの200Hz以下はローカットでバッサリと削ります。

【その他のパートの処理】

そして、その他のパートですが、これまでと同様に、
「そのパートを置いては、位置を確かめ、ボーカルを邪魔しない様にEQで削り、次に、今まで前に配置したその他のパートを邪魔しない様にEQして、今までのパートよりも後ろに配置」
を繰り返していきます。

前の方に位置するパートをしっかりとミックスして配置し、だんだん後ろのパートへ移っていきます。後ろのパートほど、前のパートを邪魔しない様に、削って削って配置していきます。

【空間系エフェクトなどの処理】

最終的に、リバーブ音、ディレイ音なども、バスなどに全て送って、「一番奥の方のパート」と捉えて、ミックスします。リバーブ音、ディレイ音、その他のエフェクト的な音も、しっかりと、ボーカルやその他の前の方の大事なパートと聴き比べて、邪魔な部分をカットして、最低限必要な帯域以外を削って、奥へ配置します。

【最後に全てのパートのバランスやキャラクターを再調整】

最後に、全てのパートを聴きながら前後のバランスや音のキャラクターを再調整していきます。これまでは頭の中や耳が、どこかに集中しがちな部分もあったかと思いますので、今度は全体を聞いて、全体のイメージをしっかり持って、調整をしていきます。髪を切った時に最後に整えてカットしてもらう様な感じでしょうか。

【EQは用途毎に分ける】

ちなみに、これまでの全ての各行程のEQは分けて掛けた方がお薦めです。例えばベースのトラックのEQでも、「ボーカルのためのベースへのEQ」と「キックのためのベースへのEQ」「ベースのキャラクター作りのEQ」「再調整用のEQ」などは全て分けて重ねがけしておいて下さい。慣れたら一つのEQでも良いのですが、分けておいた方が、何のためのEQ処理なのか個別に理解して掛けられますし、変更があった際でも必要なEQだけ変更すれば良くなるので分けるのがお薦めです。

【前後感が完璧のミックスが完成】

これで、全て思い通りの前後感のミックスができます。
今までのサウンドと比べてかなりクオリティの高い狙い通りのサウンドとなったのではないでしょうか?

もし上手くいかない様であれば、もしかしたらモニター環境に原因があるかもしれませんので、その場合は、モニター環境も改善して頂くとより思い通りのミックスができるかもしれません。以前書いた記事も参考になさってみて下さい。

ミックスについては、またご質問などにお答えして書かせて頂きます。何か参考にして頂ければ幸いです。

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